スポーツの性別・階級による区分
東京オリンピックでトランスジェンダーの人が女子重量挙げに出て話題になった。
【東京五輪】 初のトランスジェンダー選手、重量挙げで記録なし 英選手が銀 – BBCニュース
それが公平なのかどうかについて色んな議論がある。
公平性
基準に関する議論
トランスジェンダーの人が女性の競技に出ることの公平性については、詳細には触れないが、現状のテストステロンによる判定基準だと不十分なのは多くの人が指摘している。
例えば、男性として育って、身長・骨格なども女性よりはるかに上回ってた人が、性転換したとしてどうなるか、など。別の例だと、競技によってはテストステロンによる競技への影響はあまり大きくなく、男性トップ選手のテストステロン値が女性トップ選手のテストステロン値より低い場合もある、など。
詳細な議論に興味のある人はググって欲しい。
一つの解決策
現状だと、多くの競技では性別や体重などでカテゴリー分けがされている。男子サッカー、女子サッカー、男子柔道60kg級など。で、これの男性・女性という区分けが今回問題になっている。
トランスジェンダーも含めて公平性を担保する一つの解決策としては、男性・女性という区分けを廃止するとともに、(テストステロン値があまり影響を及ぼさない競技もあるので)競技によって
- テストステロン ○ナノモル以下
- 身長 ○ cm以下
といった形で、カテゴリー分けを見直すというもの。
これであれば確かにトランスジェンダーも含めて公平かもしれない。でも、こんなカテゴリー分けがされているスポーツを見たいだろうか。
カテゴリーを超えたスターを見るのもスポーツの醍醐味
男女や体重などのカテゴリー分けを超えた活躍をする選手、あるいはカテゴリー分けはされていないけど体格差が有利に働くスポーツで、体格に劣る選手が体格に勝る選手に勝つ、そういったのを見るのもスポーツの醍醐味だと思う。
ここでは、そういったカテゴリーを超えた選手・戦いをいくつか紹介してみたい。
1990年柔道全日本選手権、古賀稔彦対小川直也
今となっては伝説の試合と言っても過言では無い。
柔道全日本選手権は体重無差別級で行われる大会で、重量級の選手、その中でも最重量級の選手が優勝することが大半。そんななか、体重75kgくらいの古賀稔彦(故人)が体重130kgくらいの小川直也と決勝で対戦し、一歩も引かず、7分にわたる熱戦を繰り広げた。最後は小川に負けるけど。
若い人にとって、小川はプロレスラーのイメージが強いと思うけど、柔道全日本選手権や世界選手権を何度も制覇していて、オリンピックでも銀メダルを取った超一流選手(金メダル確実と言われるくらいだった)。
体重差があり、かつ相手は超一流という圧倒的に不利な条件の中での、古賀のこの勇姿は見事としか言いようが無い。
Manny Pacquiao
言わずとしれたボクシング界のスーパースター。
- フライ級(50.802kg以下)からスーパーウェルター級(69.853kg以下)まで階級を上げ続けて王座を獲得
- 相手を倒すファイトスタイル
- 強い相手から逃げない姿勢(キャリアで何度か負けている)
- 40才を過ぎても一線で活躍
という点が人気のある主な理由。
動画は YouTube にいっぱい上がってるので、とりあえず1つだけ貼っておく。今って、DAZN とかのちゃんとした動画が YouTube にあがってるのね。
2009年の試合だけど、この頃が全盛期かな。ダウンシーンがエグい。
2020東京オリンピック、女子バスケ日本代表
オリンピック開始前、日本男子よりは上位に行くことが期待されていた女子バスケだけど、前年に大黒柱の渡嘉敷来夢が怪我をして代表から外れてたので、個人的にはそこまで(というか全然)期待はしていなかった。
それが、何と銀メダル。決勝でも大会6連覇中のアメリカに90-75と善戦。
渡嘉敷は193cmだけど今回は代表に入っていないので、日本の平均身長は出場12カ国で2番目に低い176センチ、だそう。そんななか、銀メダルは凄い。
内容としては典型的なスモールボール。3pt をバシバシ決めまくったり、速攻から町田の好アシストで点を入れたり、見てて気持ちよかった。
Muggsy Bogues
身長160cmで、NBA のスタメン PG として活躍したスター選手。身長201cmの Larry Johnson との名コンビは人気を博した。
バスケのクリニックか何かで来日もしている。長いけど、良い番組なので時間があれば見て欲しい。
Spud Webb
170cm の低身長ながら、1986年のダンクコンテストで優勝して衝撃を与えた。日本では、ミズノの CM に出ていて「小さかったら高く跳べ」というキャッチコピーでも有名だったけど、動画は見つからず・・・
Diego Maradona
言わずとしれたマラドーナ。サッカーの場合、特にフォワードの場合は、低身長だからって不利になるわけでは無いので、「カテゴリーを超えた」というくくりは違うかもしれない。ただ、165cmの小柄な男が、屈強なDF陣を切り裂いていくのは衝撃的だった。
動画とかはいくらでも見つかるので省略。
吉田えり
「ナックル姫」の愛称で知られる女子プロ野球選手。魔球ナックルを武器に、女性ながら男子プロ野球の独立リーグやアメリカの独立リーグでも試合に出場。男性の野球チームに女性が参加するという、漫画のような話を実際に行ったパイオニア。
独立リーグでの成績は振るわなかったものの、それでも「日本人女子初」という記録をいくつか残した功績は色褪せることは無い。
独立リーグは試合の中継なども当然無く、TV のニュースなどでたまに取り上げられるくらいなので、正直なところ彼女のプレイはあまり見たことが無い。YouTube で検索したら、最近の動画が出てきたので貼っておく。まだ現役らしい。
これまた正直な感想を言うと、ナックルを投げられるだけでも凄いとは思うけど、YouTube で同じくナックルボーラーの MLB 選手であるウェイクフィールドとかの動画を見ちゃうと、吉田選手くらいの変化ではなかなか厳しいのかなという気がする。
以下の動画は MLB のナックルボールを集めたもの。ものすごい変化。ピッチャーによっては 130km/h くらい出している人もいて、そのスピードであの変化だと打つのは至難の業。
その他感想など
カテゴリーが多すぎるかも
プロボクシングの階級は、Wikipedia によると、ヘビーとミドルが最初期(1884年)からあり、少し遅れてライト、フェザー、バンタムができた。その後20年近く間が空いて、1910年代にフライ、ライトヘビー、ウェルターが出来て、ここまでの8階級が「glamour divisions」と呼ばれる。そこからはかなり間が空いて、第二次大戦後に、各種のスーパー○○級、ジュニア○○級などが出来て現在に至るという感じ。
Weight class (boxing) – Wikipedia
全17階級というのが多過ぎという声は結構よく聞く。(それよりも団体の分裂、さらにはスーパー王者、暫定王者、休養王者などの乱立に対しての方が批判が多いが、本題では無いのでここでは触れない。)
柔道に関しても、元々は無差別級、重量級、中量級、軽量級の4階級だったが、現在は7階級。
もちろん、格闘技系は体重による有利不利が大きいので階級を分ける必要はあるが、ボクシングは少し細かすぎるように思える。
世の中は不公平なもの
カテゴリーが多すぎるのと少し似た話だが、公平性を重視するあまりに、変なカテゴリー分け(例: テストステロン ○ナノモル以下級)をしてしまうと、普通の人には分かりにくくなり、そのスポーツの人気が落ちるなどの弊害がありそう。
そもそも身長、筋肉量などは遺伝による個人差はあるし、お金持ちの家に生まれた方が、食事やトレーニング環境に恵まれているため、体の発達や技術の向上に有利になることが多い。こういった「不公平」は数え切れないくらいあるので、公平性を求めるのとその競技のファンにとってのわかりやすさというのはトレードオフなのかもしれない。
スポーツに関しては、世の中の不公平さを受け入れる必要があるかもしれない。そんな状況の中だからこそ、上に挙げたような、不公平さを跳ね返す選手達が人を惹きつけるのだと思う。