スポーツ界の革命家と GOAT

スポーツ好きな人が好む話題として、

  • 歴史上で誰が一番優れたプレイヤーか
  • (時代の違う)AとBが対戦したらどうなるか
  • もし、Aが怪我をしなかったら/チームXに加入してたら、などなど

といった、実際に検証にしようがない仮定の話は鉄板だと思う。その中で、今回は

「歴史上で誰が一番優れたプレイヤーか」

という話題とそれに関連する話を書いていきたい。この手の話の根源的な性質として主観にならざるを得ない点はご了承頂きたい。(文句なしの一番がいるスポーツってほとんどない。パッと思いつくのはアイスホッケーのグレツキーくらい。)

ちなみに、歴史上で一番優れたプレイヤーのことを英語で Greatest Of All Time、略して GOAT と言うので、以下は GOAT と書くことにする。

なぜ GOAT 論争は紛糾するか

そもそも定義が難しい

GOAT は誰か、という話をすると、ほぼ100%話がまとまらない。理由は色々あるが、主に以下の2つに集約されると思う。

  • 人によって思い入れのある/よく知っている世代が異なる
    • 野球の打者だと、年配の人なら川上哲治を挙げるかもしれないが、若い人ならイチローを挙げるかもしれない
  • GOAT の定義が人によってまちまち
    • 個人成績を重視する人もいれば、獲得タイトル数とかを重視する人もいるし、後世の選手に与えた影響を重視する人もいる

スポーツは進歩する、変化する

少し話は逸れるが、以下のような定義は個人的には無意味だと思う。

「タイムマシンで同じ場所に連れてきて対戦させ、勝った方が GOAT」

理由としては、スポーツの戦略・戦術、あるいはトレーニング理論などは日々進歩しているので、古い世代の選手が新しい世代の選手と戦った場合、新しい世代の選手が勝つ確率がかなり高いというのが挙げられる。

また、スポーツによっては、時代によってルールが大きく異なることもある。

今回の話題

今回は、あるスポーツに与えた影響力、そのスポーツをどれだけ変革したか、という観点に少し重きを置いて、GOAT について語ってみたい。もちろん、通常の GOAT 論争で出てくるような個人成績・獲得タイトルなどがそれなりにあることは前提とする。(例えば、ボスマン判決のジャン=マルク・ボスマンがサッカーに与えた影響力はまさに革命的だと思うが、選手としては一流からはほど遠いため、今回の GOAT 論争からは当然除外する。)

バスケ

よく挙げられる選手達

バスケの場合、どんな基準だったとしてもマイケル・ジョーダンは必ず GOAT 論争に上がってくるプレイヤーである。

  • 獲得タイトル
    • NBA チャンピオン x 6 (3連覇を2回)、全てファイナル MVP
    • 得点王 x 10
    • その他、数え切れないくらいのタイトル
  • 影響力
    • 初代ドリームチームの主役
    • Air Jordan の大ブーム

という輝かしい実績を誇る。タイトルに関しては、個人成績も優れているし、チームも常勝であり、ケチのつけようがない。

一方、レブロン・ジェームズは GOAT 論争でマイケル・ジョーダン双璧をなすプレイヤーである。

  • 獲得タイトル等
    • NBA チャンピオン x 4、全てファイナル MVP
    • オール NBA ファーストチーム x 13
    • オールスター選出 x 18
    • 通算得点歴代2位(1位も見えてきている)
  • 影響力
    • 2010年に FA でマイアミ・ヒートへ移籍したことで、選手とチームの力関係を大きく変えた

ジョーダンとレブロンを比較する時に良く出る話としては

  • ジョーダンが上
    • ジョーダンは NBA ファイナルで負けたことがないが、レブロンは度々負けている
    • ジョーダンは NBA 人気を一段上に高め、バスケを超えたスポーツ界のアイコン
  • レブロンが上
    • レブロンはどのポジションもこなせるオールラウンダーで、得点だけでなくリバウンド、アシストなど、多くの個人成績でジョーダンを上回る
    • ジョーダンは MLB に挑戦したり引退→復帰したりとキャリアに穴があるが、レブロンは高卒でデビューしてから40近くになる現在まで大きな故障もなくずっと一線級で活躍している

といったものが挙げられる。

なお、この2人以外だと、もっと昔のウィルト・チェンバレンが挙げられたりするが、個人的にはよく知らないしまさに「伝説上の」プレイヤーだと思うので、今回は深入りはしない。

また、数年前に亡くなったコービー・ブライアントも GOAT 論争に上がってくることがあるが、

  • ポジションはジョーダンと一緒で、優勝回数、得点王の回数はジョーダンより劣る
  • ジョーダンより長い間活躍していたが、その観点だとレブロンの方が若干上

ということで、ジョーダン、レブロンより若干下と考える人が大半だと思う。

ジョーダン vs. レブロン

個人的にはジョーダンが活躍した世代に一番バスケを見ていたというバイアスのせいかもしれないが、考えるまでもなくジョーダンが GOAT だと思う。極力客観的に見(ようと努力し)ても、レブロンが勝てる要素としては

  • キャリアの長さ
  • 通算成績
  • 直接対決したらレブロンが勝ちそう
    • 前述の通り、レブロンの方が新しい世代の選手で、より優れたトレーニングをしている
    • 身長も高くオールラウンド度合いではジョーダン以上
      • ちなみにジョーダンもディフェンスの鬼だし、相当なオールラウンダー

くらいだと思う。

ただ、チームメートとしてどちらかを選ぶなら、という話だと、よりオールラウンダーなレブロンの方が使い勝手が良いかもしれない。

革命的か

優勝回数、NBA ファイナルの勝率といった成績面、あるいは Air Jordan やドリームチームを通じて NBA を別次元の人気に押し上げた功績などから、レブロンよりジョーダンの方が上と見る人が(若い人も含めて)多いと思うけど、ここでは別の観点を提示したい。

プレイヤーとしてNBA に革命を起こしたか、という観点も加えると、GOAT 論争は完全にジョーダンの方が上回ると思う。

ジョーダンがキャリアを開始した80年代は、それ以前の世代ほどではないもののビッグマン偏重の時代で、ジョーダンが全体の3位指名された年のドラフトの1位はアキーム・オラジュワン、2位はサム・ブーイで、共にセンター。殿堂入り選手のオラジュワンは良いとして、2位のブーイは大学時代の成績もジョーダンに劣り、プロ入り後の成績もパッとしなかった。90年代以降であれば、ジョーダンは少なくとも2位指名、もしくは1位指名されていたものと思われる。

さて、そんなビッグマン偏重の時代に、ジョーダンは比較的低身長(198cm)ながら、爆発的な身体能力を活かしてリーグを席巻し、バスケットのあり方を大きく変えてしまった。

ジョーダンがいなければ、アイバーソンなどが登場していなかったかもしれない。(あるいは、アイバーソンがジョーダンのような役割になっていたかもしれない。)

もう1人の革命家、カリー

GOAT 論争にはあまり上がってこないが、NBA に革命を起こした人物として、ステフィン・カリーが挙げられる。彼のことを、最も過小評価されているプレイヤーという人もいるくらいで、GOAT に挙げられることはあまりない。その理由としては

  • 1人でどうにかするタイプではない
    • スクリーンでマークを外した後でシュートを打つことが多い
  • 強力なチームメートがいる・いた(ケビン・デュラント、クレイ・トンプソン、ドレイモンド・グリーン)

というところだと思う。

しかし、彼が NBA に与えた影響力は甚大で、現在のようなスリーポイント全盛の時代となったのは彼の存在によるところが大きい。ゲームのあり方を変えたという点ではジョーダンよりも遙かに上と言っても良いと思う。

個人成績としては、ジョーダン、レブロンは当然として、コービーなどよりも劣っている。

  • NBA チャンピオン x 3、(ファイナル MVP は無し)
  • 得点王 x 2
  • オール NBA ファーストチーム x 4

辺りが特筆すべきものかと思う。ただ、現在2021-2022シーズンのファイナルまっただ中だが、もしここで優勝するとなると、優勝回数でレブロンに並び、GOAT 論争に上がってくることが多くなるかもしれない。

日本プロ野球

バスケの話で大分長くなったので、野球は少し手短にいこうとおもう。個人的には MLB は詳しくないので、日本プロ野球限定で。

よく挙げられる選手達

投手でよく出てくる名前としては

  • 沢村栄治(沢村賞)
  • 金田正一(400勝)
  • 稲尾和久(神様、仏様、稲尾様)
  • 江夏豊(シーズン最多奪三振等)

辺りだと思う。いずれも伝説の選手で、現役時代を知っている人はかなり年配の人だろう。沢村に関しては戦前の選手なので、見たことある人はほとんど生きておらず、映像も殆ど残されていない。

打者だと

  • 川上哲治(打撃の神様)
  • 王貞治(本塁打868本)
  • 落合博満(三冠王 x 3)
  • イチロー(MLB 3000本安打)

ってところ。長嶋茂雄と野村克也がそこに加わるか、という感じか。

革命を起こしたのは?

では、成績だけでなく革命的だったという観点を重視するとなると、上に挙げなかった選手が何名か加わってくる。

投手では野茂英雄。独特のトルネード投法で大人気となり、日本人が MLB にどんどん行くようになったきっかけとなった人物。成績面では日米通算201勝で、伝説の投手達に比べれば見劣りはするが、そもそも時代が違うのと、後世に与えた革命的な影響力からも、GOAT 候補と言って良いはず。

打者は、上で挙げた4人はどれも偉大な選手で甲乙つけがたい気もするけど、比較対象となる選手が日本人ではなく MLB の偉大な選手であるという点で、王貞治とイチローはちょっとだけ抜きん出ているのかもしれない。

王は実際には MLB に行っていないが、もし MLB に行ってたらどうだったのか、868本というのは日本の記録であって MLB の記録と比較は出来ない、などと論争は尽きない。そして、そうした論争を巻き起こしたというのが、革命的な選手だった証拠なのかもしれない。

イチローは実際に MLB に行って3000本安打。日米通算ではピート・ローズの最多安打記録を抜いているが、これも最初から MLB にいたらどうなったか、という論争を巻き起こした。

サッカー

よく挙げられる選手達

サッカーの GOAT で名前が絶対挙がるのが

  • ペレ
  • ディエゴ・マラドーナ

の2人。若いサッカーファンだとリオネル・メッシを挙げる人もいるが、ワールドカップを取っていないという点で、若干厳しい。

革命家

さて、サッカーの戦術に革命を起こした観点で言うと、先ほどの2人加えてヨハン・クライフも GOAT 候補になる。ワールドカップでは準優勝止まりだったのが惜しまれる。ただ、監督としても優秀だったのは特筆に値する。

監督は?

監督だと、単に強いチームを率いていただけの人はあまり覚えられていない気がする。レアルマドリードの欧州チャンピオンズカップ5連覇の時、ディステファノが活躍したというのは知っていても、監督は誰だったかを知っている人はほとんどいない。ペレがいた時のブラジル代表監督が誰かってのも殆どの人は知らない。

監督として名を残している人は、革命的な戦術でサッカー界を変えた人だと思う。そういう観点で言うと、個人的には以下の2名が GOAT にふさわしいと思う。

  • アリゴ・サッキ
  • ジョゼップ・グアルディオラ

サッキは、ゾーンプレス、オランダトリオ、鉄壁のディフェンスラインと、個人的にも強烈な印象を持っているが、改めて調べてみるとリーグ優勝は1回だけだったし、代表監督としても平凡な成績だったりと、チャンピオンズカップの2連覇は偉業だけど、成績だけであればそれ以上の監督もそこそこいる。ジダンとか。

まとめ

GOAT 論争は、スポーツ好きに取っては鉄板ネタで、観点により誰が GOAT なのかは大きく変わってくる。今回は、「革命的か」という観点を強めに出して、色々書いてみた。

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